CLASSIFICATION

考えが、会話の中で何をしているか

対話行為の国際規格 ISO 24617-2 の 63 の働きで読む

扱う問い

会話における発言は、ひとつの内容だけを伝えているとは限りません。質問しながら自分の意見を伝えていたり、相手に同意しながら次の話題へ移ろうとしていたりします。

AWAI が最初に向き合うのは、「発言に含まれるひとつの考えが、会話の中で何をしているのか」をどう記述するかという問いです。

考えとポイント

AWAI は、ひとつの発言をいくつかの「考え」に分けて扱います。考えとは、発言の中でひとつのことを言っている部分であり、分析の基本単位です。ひとつの考えの中には、個々の事実・提案・論点といった「ポイント」が複数含まれることがあります。

会話における働きを読み取るのは、この考えの単位です。

参考にした規格: ISO 24617-2

人の話し方や思いは千差万別で、発言の働きを単純に一通りの分類で決め切ることはできません。そこで AWAI は、独自の分類をゼロから設けるのではなく、専門家がデータをもとに議論を重ねて定めた基準を土台にしました。対話行為 (dialogue act) の注釈に関する国際規格、ISO 24617-2 です。

この規格の背景には、それまでに開発されてきた数多くの注釈体系が存在します。TRAINS、Verbmobil、ミーティングの分析向けの ICSI-MRDA や AMI などです。しかし、これらは特定の目的や分野のために個別に作られていたため、同じ概念に別の名前が付いていたり、同一の名称が異なる概念を指していたりする不統一がありました。そこで ISO 24617-2 は、分野によらない多次元の体系 DIT++ (Bunt 2006、2009) を土台に、そうした概念を整理し直しました。英語・オランダ語・イタリア語の会話データに対する人手の注釈を通じて、使いやすさと網羅性が確かめられています。第 1 版 (2012 年) は、Bunt を代表とする 10 人のプロジェクトチームと、35 人の専門家による協議グループのもとで策定され、2020 年に第 2 版へ改訂されました。

会話の参加者は、本題を進めることだけでなく、「相手の言ったことを理解できたか」「誰が次に話すか」「時間の使い方」「あいさつやお礼」といった社会的なやりとりについても、絶えず情報をやりとりしています。規格はこれらを 「10 の観点」(dimensions) として整理しています。観点を選ぶ条件としては、「区別できる活動として研究されてきたこと」「互いに独立していること」「人にも機械にも見分けられること」の 3 つが掲げられ、既存の 18 の注釈体系の分析と、統計および機械学習による検定によって妥当性が確かめられています (Petukhova & Bunt 2009)。

さらに重要なのが、ひとつの発言が同時に複数の観点で働きうるという考え方 (multidimensionality:多次元性) です。例えば「そうですね、それで次の話ですが」という一言は、自分が理解したことを示すと同時に、話題を変える働きも担っています。

63 の働き

AWAI が考えに割り当てる働きは、規格の付属書 (Annex F) が定める 「63 の働き」です。判定の基準はこの 63 種類のみであり、AWAI 独自の働きは追加していません。

63 のうち 27 は、どの観点でも使える汎用の働きで、主に本題を進めるやりとりに現れます。残りの 36 は、本題以外の 9 つの観点に固有の働きです。

観点扱う働き規格の働き
本題Task※どの観点でも使える汎用の働き会話の目的そのものを進める: 尋ねる・伝える・答える・賛否を示す・頼む・勧める・引き受けるquestionsetQuestionpropositionalQuestioncheckQuestionchoiceQuestiontestQuestioninformagreementdisagreementcorrectionanswerconfirmdisconfirmofferpromiseaddressRequestacceptRequestdeclineRequestaddressSuggestacceptSuggestdeclineSuggestrequestinstructaddressOfferacceptOfferdeclineOffersuggest
自分の理解の表明Auto-Feedback相手の発言を自分がどう受け取ったかを示すautoPositiveautoNegative
相手の理解への反応Allo-Feedback相手が自分の発言をどう受け取ったかに反応する・確かめるalloPositivealloNegativefeedbackElicitation
話す順番Turn Management話し始める・続ける・譲るturnTaketurnAcceptturnGrabturnKeepturnAssignturnRelease
時間Time Management考える間をとる・少し待ってもらうstallingpausing
接触Contact Management相手と話せる状態かを確かめる・自分が話せる状態だと示すcontactCheckcontactIndication
自分の言い直しOwn Communication Management自分の言い間違いに気づく・取り消す・直すselfErrorretractionselfCorrection
相手の言葉の補いPartner Communication Management相手の言葉を補う・言い間違いを直すcompletioncorrectMisspeaking
話の組み立てDiscourse Structuring話を始める・進め方を示す・話題を変えるopeninginteractionStructuringtopicShift
社会的なやりとりSocial Obligations Managementあいさつ・自己紹介・謝罪・賛辞・祝意・お見舞い・お礼・別れのあいさつinitGreetingreturnGreetinginitSelfIntroductionreturnSelfIntroductionapologyacceptApologycomplimentcongratulationsympathyExpressionthankingacceptThankinginitGoodbyereturnGoodbye

AWAI での解釈

AWAI は、この規格を次のように解釈して取り入れています。

  • 働きを付ける単位は「考え」規格は、会話を働きごとの最小の区間 (functional segment) に区切って注釈します。対して AWAI は、発言から取り出した「考え」を単位として働きを付けます。考えはひとつのことを言っている部分であるため、ひとつの考えが複数の働きを持つことがあり、これは規格の多次元的な考え方 (multidimensionality) と重なります。
  • 観点ごとに、複数の働きが付くひとつの考えに対して、観点ごとに 0 個以上の働きを判定します。
  • 判定を担うのは LLM規格の定義文をプロンプトとして LLM に渡し、その定義に照らして働きを判定します。ISO 24617-2 は当初から、書き起こしからの自動の注釈 (automatic annotation) を用途のひとつに含んでいました。現代の LLM を用いることで、規格の定義を文章のまま当てはめる形で、この自動注釈が実現できるようになりました。

6 つのまとまり

63 の働きをそのまま並べても、会話全体の傾向はつかみにくくなります。そこで AWAI は、判定結果を俯瞰しやすくするために、本題の観点に付いた働き (汎用の 27 の働き) を 「6 つのまとまり」に束ねて表示しています。束ね方は、規格が汎用の働きに設けている 4 つのまとまり (情報を求める / 情報を与える / 自分が引き受ける / 相手に促す) をもとにしています。判定そのものはあくまで 63 の働きで行っており、6 つのまとまりは表示のための整理です。

まとまり意味束ねている働き
問い情報や答えを求めるquestionsetQuestionpropositionalQuestioncheckQuestionchoiceQuestiontestQuestion
伝える情報や考えを伝えるinform
応答相手の問いや発言に答える・賛否を示すagreementdisagreementcorrectionanswerconfirmdisconfirm
依頼・提案相手に何かを頼む・勧めるrequestinstructsuggestaddressOfferacceptOfferdeclineOffer
引き受け自分が何かをすると約束・申し出るofferpromiseaddressRequestacceptRequestdeclineRequestaddressSuggestacceptSuggestdeclineSuggest
その他会話を円滑に進める(あいさつ・相づちなど)本題の観点に働きを持たない考え

「伝える」と「応答」は、規格では同じ「情報を与える」のまとまりに含まれます。しかし AWAI では、「相手の発言を受けて返しているかどうか」が会話の流れを読むうえで重要になるため、独立したまとまりとして分けています。

なお、ひとつの考えが複数の働きを持つ場合、2 つ以上のまとまりにまたがって表示されることもあります。

読み違いが残るところ

発言が持つ働きの読み違いは、実際の会話の場にいる人間の間でも起こり得ます。後から会話全体を振り返れば意図が理解できることでも、その場では情報が足りず、判断が難しい場合があるためです。働きの要素はあっても、言葉の表面に明瞭に現れてこないことも少なくありません。

AWAI にも同じ難しさがあります。特に、相づちや話す順番のような会話の進行を支える働きは、文章だけからは読み取りにくく、判定を担う LLM にも読み違いが残ります。扱える情報の手がかりを増やしていくことで、この点は改善していけると考えています。

このページの参考文献

  • ISO 24617-2:2020. Language resource management — Semantic annotation framework (SemAF) — Part 2: Dialogue acts. www.iso.org/standard/76443.html訳題: 言語資源管理 — 意味注釈の枠組み (SemAF) — 第 2 部: 対話行為本文の確認は、起草者が公開している ISO/DIS 24617-2 (2019。2020 年 2 月の国際投票で承認された版) による: dit.uvt.nl補足 — このページで参考にした部分:会話の働きを捉える 10 の観点 (§8.2) と、その選び方の条件。付属書 Annex F の 63 の働きの定義文 (AWAI はこれを LLM に渡しています)。ひとつの発言が複数の観点で働く多次元性 (§7)。規格の成り立ち (§4.1) と、自動の注釈を用途に含むこと (§4.2)。
  • Bunt, H., Petukhova, V., Gilmartin, E., Pelachaud, C., Fang, A., Keizer, S. and Prévot, L. (2020). The ISO Standard for Dialogue Act Annotation, Second Edition. Proceedings of LREC 2020, pp. 549–558. aclanthology.org/2020.lrec-1.69訳題: 対話行為注釈の ISO 規格 第 2 版補足 — このページで参考にした部分:第 2 版で「接触」の観点が加わって 10 の観点になったこと。第 1 版で付けた注釈が第 2 版でもそのまま有効であること。
  • Bunt, H. (2006). Dimensions in Dialogue Act Annotation. Proceedings of LREC 2006, Genoa, pp. 919–924.訳題: 対話行為の注釈における次元補足 — このページで参考にした部分:ISO 24617-2 が土台にした、観点 (dimension) で対話行為の分類を多次元に組み立てる考え方。このページでは、規格の本文 (§7.2) がこの論文を引く形で参照しています。
  • Bunt, H. (2009). The DIT++ taxonomy for functional dialogue markup. Proceedings of the AAMAS 2009 Workshop EDAML, Budapest, pp. 13–24.訳題: 機能的な対話マークアップのための DIT++ 分類体系補足 — このページで参考にした部分:ISO 24617-2 の土台になった DIT++ の分類体系。このページでは、規格の本文 (§4.1) がこの論文を引く形で、規格の成り立ちの説明に参照しています。
  • Petukhova, V. and Bunt, H. (2009). The independence of dimensions in multidimensional dialogue act annotation. Proceedings of NAACL-HLT 2009, Short Papers, pp. 197–200. aclanthology.org/N09-2050訳題: 多次元の対話行為注釈における次元の独立性補足 — このページで参考にした部分:観点どうしが互いに独立していることの検証。規格の本文 (§8.2) は、この研究を含む一連の分析をもとに 10 の観点を選んだと述べています。