RELATIONS

考えどうしが、どうつながっているか

談話関係の国際規格 ISO 24617-8 (DR-core) を出発点とする 19 の論理関係と、応答の依存で読む

扱う問い

会話の中の考えは、それぞれが独立して存在しているわけではありません。ある考えが前の考えの理由になっていたり、別の考えと対比されていたり、相手の問いに答えていたりします。

このページで扱うのは、「2 つの考えのつながりには、どんな種類があるのか」 という問いです。

参考にした規格: ISO 24617-8 (DR-core)

文と文、あるいは発言と発言のあいだの関係は、「談話関係」(discourse relation) として長く研究されてきました。代表的な枠組みとして、修辞構造理論 (RST)、Penn Discourse Treebank (PDTB)、SDRT、Hobbs の一貫性の理論、Sanders らの認知的な分類などが挙げられます。しかし、関係の立て方やまとめ方は枠組みごとに異なります。たとえば「譲歩」という関係は、ある枠組みでは「対比」と同じグループに入り、別の枠組みでは因果のグループに分類されます。

ISO 24617-8 (DR-core) は、こうした枠組みの共通点と違いを分析し、談話関係の注釈に欠かせない中核的な関係を定めた国際規格です (Prasad & Bunt 2015)。大きく 3 つの特徴があります。

  • 内容の関係に絞る話し手が内容をどう見せるか (presentational) ではなく、述べられている事柄どうしの関係だけを扱います。
  • 平らな一覧にする関係を上位・下位のグループに分けません。枠組みごとにまとめ方が異なるため、グループを持たない一覧のほうが、異なる枠組みのあいだの共通の足場になります。
  • 2 つの要素のあいだの局所的な関係として扱う会話全体の構造ではなく、2 つの要素のあいだの関係を 1 つずつ記述します。

DR-core は 20 の関係から成り、そのうち 2 つは発言どうしの依存 (functional dependence / feedback dependence) です。対話行為の規格である ISO 24617-2 の第 2 版では、この依存の 2 つを別の仕組みで扱い、残る 18 に「評価 (evaluation)」を加えた 19 の関係を定めています。

つながりの種類

AWAI では、つながりを 2 つの層で読みます。ひとつは「考えどうしのつながり」、もうひとつは「ポイントと考えのつながり」です。

考えどうしのつながり — 論理関係 (19 種)

ISO 24617-2 第 2 版が定める 19 の関係です。2 つの考えの内容がどう関係しているかを表します。

関係意味
原因cause一方が、もう一方の理由になっている
条件condition一方が実現すれば、もう一方が起きる
否定条件negativeCondition一方が実現しなければ、もう一方が起きる
目的purpose一方が、もう一方のねらい・目的になっている
手段manner一方が、もう一方のやり方を述べている
譲歩concession予想される流れに反して、もう一方が成り立つ(「〜だが」)
対比向きのない関係contrast二つの違いを際立たせている
例外exception一方が、もう一方の当てはまらない場合を示している
類比向きのない関係similarity二つの似ている点を示している
置換substitution二つが選択肢で、一方がもう一方に代えて選ばれている
並列向きのない関係conjunction二つが同じことについて並んで成り立っている
選言向きのない関係disjunction二つが同じことについての選択肢になっている
例示exemplification一方が、もう一方の具体例になっている
詳述elaboration同じことを、一方がより詳しく述べている
言い換え向きのない関係restatement同じことを、別の見方で述べている
同時向きのない関係synchrony二つが時間的に重なっている
継起asynchrony二つが時間的に前後している
展開expansion共通の要素を持つ別のことへ、話を広げている
評価evaluation一方が、もう一方への評価・意見になっている

※ は向きのない (対称な) 関係です。ほかの 13 は、2 つの考えがそれぞれ別の役割 (理由と結果など) を持ちます。

考えどうしのつながり — 依存

相手の問いに答える、提案を受け入れる、といった応答の働きを持つ考えは、直前の相手の発言につながります。ISO 24617-2 では、「答えの内容は問いに依存する」というように、応答の働きそれ自体が前の発言への依存を持つと考えます (functional dependence)。

考えどうしのつながり — 潜在

会話の中では結ばれていないものの、内容がとても近い考えどうしのつながりです。論理関係の線が引かれた組には出しません。

ポイントと考えのつながり

考えの中のポイントが、ほかの考えと直接つながることがあります。あるポイントに対してほかの考えが言及・回答・反論している場合や、ポイントそのものがほかの考えへの言及・回答・反論になっている場合です。話題が関連しているだけでは足りず、直接の応答や展開があるときだけ「繋がった」と判定します。発言の前後は問いません。

どの考えともつながらなかったポイントは、「未接続」として残ります。一度出たきり拾われなかったポイントも、会話の中で流れていったものとして意味を持ちます。

また、直接の応答がなくても、内容がとても近い考えとの組み合わせも、ポイントのつながりとして保持します (考えどうしの潜在と同じ考え方です)。

AWAI での解釈

AWAI は、この規格を次のように取り入れています。

  • 種類は LLM が判定し、あるかどうかは意味の近さで決める論理関係について、LLM が判定するのは「どの関係か」という種類だけです。線を引くかどうかは、2 つの考えの発言そのものの意味の近さで決めます。「つながっているか」と「どうつながっているか」を別の問いとして分けて扱うためです。
  • 向きのない関係は、先に出た方を第 1 項にする規格の慣例 (2 つの項の役割が同じ関係では、談話で先に出た方を arg1 とする) にそのまま従っています。
  • 依存は規則で決める規格では依存は注釈者が指定しますが、AWAI では「応答の働きを持つ考えは、直前の相手の発言の最後の考えにつなぐ」という規則で決めています。どの考えが応答の働きを持つかは、働きの分類 (ISO 24617-2) の結果を参照します。
  • 依存と論理関係は別に持つISO 24617-2 第 2 版が DR-core の依存を別の仕組みで扱っているのと同様に、AWAI も依存を論理関係の 19 種とは別のつながりとして扱います。

言葉にされないつながり

つながりは、実際に発言された内容から読み取ります。そのため、発言されていない情報は加味されません。あえて言わずに通じている理由や、その場の参加者が前提として共有している事柄によってつながっている考えどうしは、線として現れないことがあります。

このページの参考文献

  • ISO 24617-8:2016. Language resource management — Semantic annotation framework (SemAF) — Part 8: Semantic relations in discourse, core annotation schema (DR-core). www.iso.org/standard/60780.html訳題: 言語資源管理 — 意味注釈の枠組み (SemAF) — 第 8 部: 談話における意味関係、中核注釈スキーマ (DR-core)補足 — このページで参考にした部分:談話関係の中核となる関係の一覧。本ページの 19 の論理関係の出発点です。関係ごとの定義文は、ISO 24617-2 の付属書 Annex E が DR-core から取り込んだものを参照しています。
  • ISO 24617-2:2020. Language resource management — Semantic annotation framework (SemAF) — Part 2: Dialogue acts. www.iso.org/standard/76443.html訳題: 言語資源管理 — 意味注釈の枠組み (SemAF) — 第 2 部: 対話行為本文の確認は、起草者が公開している ISO/DIS 24617-2 (2019。2020 年 2 月の国際投票で承認された版) による: dit.uvt.nl補足 — このページで参考にした部分:付属書 Annex E.3 の 19 の関係と定義文 (AWAI はこれを LLM に渡しています)。向きのない関係では談話で先に出た方を arg1 とする慣例。応答の働きがそれ自体で前の発言への依存を持つという考え方 (functional dependence) と、応答型の働きの一覧 (§8.3.4)。
  • Bunt, H., Petukhova, V., Gilmartin, E., Pelachaud, C., Fang, A., Keizer, S. and Prévot, L. (2020). The ISO Standard for Dialogue Act Annotation, Second Edition. Proceedings of LREC 2020, pp. 549–558. aclanthology.org/2020.lrec-1.69訳題: 対話行為注釈の ISO 規格 第 2 版補足 — このページで参考にした部分:第 2 版が DR-core を出発点に、19 の関係を定めたこと (付録の Table 1)。草案と正式版とで、19 の関係と定義文が同じであることの確認にも使っています。
  • Prasad, R. and Bunt, H. (2015). Semantic Relations in Discourse: The Current State of ISO 24617-8. Proceedings of the 11th Joint ACL-ISO Workshop on Interoperable Semantic Annotation (ISA-11), London. aclanthology.org/W15-0210訳題: 談話における意味関係 — ISO 24617-8 の現状補足 — このページで参考にした部分:DR-core の設計方針 — RST・PDTB・SDRT などの既存の枠組みの比較、内容の関係に絞ること、グループを持たない平らな一覧にすること、2 つの要素のあいだの局所的な関係として扱うこと。20 の関係のうち 2 つが依存であること。